屋根
- 作・演出 倉本聰
- 富良野GROUPロングラン公演2009冬
- 富良野GROUPロングラン公演2016冬
大正12年、北海道富良野の小さな開拓小屋で結ばれた夫婦、根来(ねごろ)公平・しの。
二人は公平が兄とも慕う従兄の猟師・鐡平の無償の愛情に支えられながら、北国の厳しい開拓時代をたくましく生きる。二人の間には九人の子宝に恵まれ、一家は公平が建てた小さな柾ぶき屋根の下で、貧しいながらも歌声の絶えない幸せな暮らしを営んでいた。
昭和の世界大戦の荒波は、山奥の彼らの家にも押し寄せる。長男一平、次男次郎の出兵に続き、三男三平や鐵兵にまで徴兵命令が下る。「戦争はいやだ。オラ、逃げる」と言い出す三平を説き伏せる公平。しかし入営直前、三平は屋根の上で服毒自殺を遂げる。
昭和20年、戦争は終結―――。数年後、行方知れずの鐵兵が、シベリアの収容所で果てたことを伝える戦友。遺品の中には、鐵兵が肌身離さず持ち歩いていたしのの写真があった。
時は流れ、世の中は貧しい節約の時代から豊かな消費の時代へと移り変わる。末息子の六郎夫婦の元で隠居している公平としの。浪費の時代、借金の時代と叫ばれる世間の流れに背くかのように、老夫婦は子どもたちの捨てた古着を裂いて縄を綯い始める。二人が生活を始めた何もない時分に、鐵兵が手ずから教えてくれた縄の綯い方で。
農地改良による自然破壊、炭鉱の閉鎖。ようやく手に入れた「豊か」といわれる時代の中で、物質的には恵まれながらも、心を失くし、行く末を見失い彷徨い始める、平成の日本人社会。しのと公平が綯い続ける縄は、いつしか時代と人の心を映した様々な彩と、その時々の想いや願いが縒り合わさった美しい姿を見せ始める。そんな時、しのは死んでしまったはずの三平の姿を見る。屋根の上に―――。